2013年2月17日日曜日

『Operating System Design: The Xinu Approach, Linksys Version』を読んだ

実際のOSのソースコードを示して解説する教科書といえば、TanenbaumのMINIXが有名である。本書は、Dougras ComerによるXINUというOSにつての同様の趣旨の本である。このような本があるという事は、以前から知ってはいた:
XINU("XINU is Not UNIX"の略)オペレーティングシステムの開発について述べた優れた本。<中略>この本はオペレーティングシステム概論の授業の副読本としてうってつけで、UNIXカーネルの授業でLionsのテキストと一緒に使っても良いくらいだ。(『Life with UNIX』p.127) 
この記述は本書の初版本に関するもので、LSI 11というPDP-11をワンチップ化したハードウェアを対象に書かれたものである。Amazonで調べてみると、本書はその後、PC版やMac版が出ていたようである。しかし、長いこと絶版となっていた。

ところが最近、Linksys(今はCISCO?)のEL 2100LというというMIPSアーキテクチャのルータ向けに書き直された版が出ていることを知った。このルータを選んだ理由として、安価で入手しやすいことと、シリアルを備えていることが本書で述べられている。日本だと、「ブロードバンドルータ」と言って家電量販店で2万円くらいで売られている類のものではないかと思う。

XINUは組込みOSとされている。今や組込み機器でもLinuxやBSDが動く時代なのでその定義は曖昧であるが、例えばMINIXと比較すると、以下の特徴がある:

  • ユーザモードとカーネルモードを区別しない
  • システムコールは普通の関数呼び出し(ただし割り込みは禁止)
  • アプリケーションはカーネルと一緒にリンクされる

MINIX本では後ろ半分に付録としてソースコードを載せていたが、本書は関数1つ毎に解説とソースコードが交互に記載されている。したがって、MINIX本のように本文とソースコードを行ったり来たりする必要はない。シーケンシャルに読める。また、小さいながらもUDP/IPプロトコルスタックも実装されている。

本書を読んだ感想だが、OSというのは、本当にまったく単なる巨大なCプログラムに過ぎない。これは、MINIX本を読んだときにも感じたことである。XINUの実装を読むことで、更にその思いを強くした。

かつては、OSには何か魔法のようなものがあると思っていた。並行プロセスやファイルシステムなど、まさに現代の魔法だった。しかし、その実装を見てみれば、何の魔法もないのだ。アーキテクチャに関わるところも、割り込み処理とブートストラップの一部だけである。そして、OSの実装言語としてのCのスジの良さ。実行環境としてスタックさえ準備してやれば、後はおなじみのCの世界である。

『Life with UNIX』にもある通り、本書はOSの授業の副読本として最適だと思う。例えば、アーキテクチャはパタヘネでMIPSを学べば、本書のアーキテクチャ依存部分もよくわかるだろう。

大人になってから、「学生時代にこの本を読んでいたら、違った未来になっていたかも」と思わせる本に出会うことがある。本書もそのひとつだ。OSに魔法などない。



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